高齢者のためのリフォーム

高齢者のためのリフォーム

ウイング

1.家の中の段差の解消工事

日本の家屋には大小の段差があります。玄関の上がり框で25~35cm、和室と洋室や廊下とで5cm、浴室15cm前後、トイレ5cm前後、2階という具合ですから、高齢者や病人にはとても危険です。 敷居につまずいて転び、骨折ということにもなりかねません。段差解消法としては、簡単な方法から少し大がかりになる工事までありますが、身体状況や予算に応じてできるだけ段差を解消しておくのがよいでしょう。

まず簡単にできることとしては、玄関の段差で上がり框が高いとお年寄りは上がりにくいので、椅子を置いたり、手すりを付けたりして対応します。

次に和室と廊下や洋室との段差ですが、敷居にすりつけ(三角形の当て木)を取り付けることによって簡単に段差を解消できます。また、少し手をかけるのであれば、廊下と和室との段差は廊下の床を二重貼りにして和室の床まで上げることにより目立たない段差解消もできます。浴室が洗面室より低い場合は簡単にすのこ板をはめて段差を解消できますが、全面改装するなら床を一旦取り壊し、洗面室と同じレベルにして、出入口の浴室側にグレーチングを付けると段差を解消できます。

 2.高齢者のための浴室のリフォーム

浴室をお年寄りが安全に使用するには、

 1 段差をなくすこと

 2 出入口幅を80cm以上にすること

 3 手すりを付けること

 4 滑りにくい床材にすること

 5 非常通報装置を付けること

 6 お湯が適温に保てること

などが必要です。

 

簡単に改造できる部分と全面改装しなければ無理な所があります。 簡単な工事で対応するにはまず、出入口の段差をなくすため、洗い場一面に段差と同じ厚さの木製のすのこ板を敷き詰めます。 全面改装であれば、床、壁、浴槽など、すべてを撤去し、入口はグレーチング(排水溝に使う格子状のフタ)付きの引き戸で段差をなくします。 浴槽のまたぎが高いと入りにくいので、シャワー椅子をおいて一旦腰掛けてから入るようにすると安全です。

 

全面改装であれば、浴槽またぎの高さが35~40cmになるよう低めに据え付け、床タイルも50角を使用すると、目地が滑り止めになります。 手すりは出入口、浴槽はいり口、浴槽反対側に下地があることを確かめてから付けてください。万一の場合に備え、防水型の非常ブザーも付けておくと安心です。 また、お年寄りの場合、温熱感覚が鈍ってくるので、沸かし過ぎの高温のお湯にうっかり入ってしまって大火傷になることもあります。 その点、自動お湯はり機能が付いていると一定温度のお湯はりができて安全です。入口は開閉の楽な引き戸にします。また、つまづいて転んだりしないように、浴室と脱衣室との段差をなくしましょう。 こういった機能をすべて満たした高齢者用ユニットバスもあります。

3.トイレの和式から洋式へのリフォーム

お年寄りは筋力が弱ってくるので、洋式のトイレが適しています。 現在の和式を洋式に変えるには、簡単にプラスチック製の便器をかぶせて置くこともできますが、きちんと工事をして洋便器に取り替え、グレードアップするのもよいでしょう。

 

洋式の便器は種類もさまざまで、洗浄機能付、暖房便座など、お年寄りが使われて便利なものがあります。 便器の位置を変えなければ、比較的簡単に水道工事、電気工事をして和式から洋式に変えることができます。

 

お年寄りはトイレが近くなるので、寝室の横にトイレがあるととても便利です。 寝たきりになってもベッドの近くにトイレがあれば自立して生活できます。

 

新築の時、寝室の横に設置するのは簡単ですが、後から改造するのは困難な場合もあります。 後からでも、寝室の横に畳1枚以上のスペースがあり、近くに汚水管が通っていれば比較的簡単に実現できます。 窓がとれなければ換気扇とオゾン脱臭器で対応できます。車椅子で便器に移乗するには、車椅子の座高と合わせた身障者用便器もあります。

 

なお工事中、トイレが使用できない期間があるので注意が必要です。

 

4.高齢者のためのリフォームポイント

段差の解消
年をとると住宅の内外にある段差につまづきやすくなり、転倒事故が起こるようになります。屋内外の段差はスロープを取り付けます。 室内の段差は、敷居にすりつけ(三角形のあて木)をつける、洋室の床面を上げるなどして解消できます。

 

 手すりの取り付け
手すりには大きく分けて、伝い歩く、階段を上がる、乗り移る、という動作を補助する役割と、トイレや入浴中などの姿勢を安定させる役割があります。 手すりは廊下、階段、浴室、トイレへの設置が最低限必要です。また、手すりが設置できるだけの充分な壁の補強も必要です。

 

 建具
開き戸は身体を移動させながらの開閉動作を必要とするため、高齢者には不向きです。また、扉に頭を打ちつけ、大きな事故につながる危険性もあります。 開き戸は危険の少ない引き戸に替えることが望ましいといえます。引き戸は手をかけやすい形状とし、吊り戸にするか、床埋め込みのレールにするか、段差をつくらない配慮をしましょう。

 

 給水・給湯設備
バルブ式水栓からレバー式水栓に替えると指だけでなく、手全体で操作することができるので、使い勝手が向上します。
給湯は目盛りを合わせるだけで好みの温度のお湯が出るサーモスタット式水栓か、湯温をリモコンで操作できる給湯器が便利です。 急に熱いお湯が出てくる心配がありませんから安心してお湯を使えます。
高齢者の方にとって入浴は精神的にも肉体的にも大切な行為です。お湯の止め忘れや沸かしすぎは高齢者に限らずよく起こることですが、こうした事故を防いでくれる風呂機能はぜひ欲しいものです。 自動風呂機能のついた給湯設備ならリモコンのボタンを押すだけで、お湯はりから、お湯はりのストップ、追炊き、保温まで、全自動。追炊き、お湯はりの止め忘れ機能がついているので、安心です。

 

 照明設備
部屋の中に陰影をつくらないように、均一の明るさとなる照明の配置にします。室内では蛍光灯で全体を照らし、必要に応じて個別に手元を照らすようにします。廊下と階段には足元灯を付けておけば安心です。
照明器具のスイッチは夜でも見やすい発光式や蛍光式のものを付けます。誰でも使いやすいように取り付け位置は通常の10cm程度低目の方がよいでしょう。

 

 冷暖房設備
年をとるにつれて、温度に対する感覚が衰え、とくに寒さへの対応が充分できなくなります。また、急激な温度変化は死亡事故につながる場合もあるので、部屋によって温度差が生じないように、居室だけでなく、トイレや浴室などにも暖房が必要になります。
また、高齢者は気温の変化に順応しにくいので、室内のどこでも均一で安定した温熱環境を実現することが必要です。(温度差は室内設定温度の±3度以内)
そのため、安全で足元から天井まで部屋を均一に暖め、頭寒足温に近い状態をつくる床暖房は高齢者にとって一番望ましい暖房方式といわれています。
また、冷房については冷風が直接身体に当たらないように設置してあげましょう。また冷え過ぎにならないように、除湿だけ行えるようなドライ機能も欲しいものです。

 

 車いすへの対応
車いすの幅は60cm程度で、通行には最低でも85cm以上、できれば廊下、ドア幅とも90cm以上、回転には150cm以上が必要です。 また、車いすの車輪が沈んでしまうことがないよう、やや固めの材料、クッションフロアや木製の床材が適しています。

 

  5.手すりの設置

 

手すりを必要とする所は最小限、浴室と階段です。あった方がよいのは玄関、トイレ、廊下、洗面室などで、身体状況によって付ける位置や種類が違ってきます。
手すりの種類は大きく分けて I 型、L型があり、また固定式と移動式に分けることもできます。太さはしっかり握るには 30mm前後、滑らせて使うには 40mm前後のものが適当です。 材質は、一般的なステンレス、カラフルな樹脂製、手触りの良い木製のものがあります。例えば浴室には、入口にI型、浴槽のはいり口にL型、浴槽の反対側にI型を横に付けるとよいでしょう。トイレには座って右側にL型を付けるのが一般的です。

 

廊下や洗面室も水平に手すりがあると移動が安全にできます。階段は、手すりを持って落下を免れた経験をもつ方も多いと思いますが、下りる時のきき手側に付けます。 ただし、手すりは壁面から10cm近く出っ張るので、階段幅が建築基準法の有効75cm を取れなくなることがあり、注意が必要です。 手すりの高さは、身長にもよりますが、80cmが標準で、使う人に合わせて調整してください。いずれの場合もしっかりした下地、例えば 12mmの構造用合板などを貼ってから取り付ける必要があります。

 

  6.二世帯住宅のリフォーム

 

二世帯住宅は住み方によって、「完全分離型」「部分分離型」「完全同居型」の3つのタイプに分けられます。この3つのタイプのうちどれを選ぶのがよいかは、それぞれの家族の考え方や事情によって違ってますのでこの先10年くらいの家族の変化を見越して、考える必要が出てきます。
二世帯住宅はライフスタイルの違う世代、生活時間にズレのある世帯が一つ屋根の下に暮らすだけに、トラブルを避けるためにプライバシーにも気を配りましょう。
しかし、これらは家族の生活時間を確認し合い、就寝の早い家人の寝室はなるべく問題となる音源から遠い位置にし、床や壁に充分な防音材(遮音材)を使うなど、間取りや設備で解決できる問題がほとんどです。

 

 完全分離型
完全分離型は、玄関も別に造るので生活はまったく別になります。2階建にして階段のある2階を若夫婦のスペース、1階を老夫婦のスペースに割り当てる例が多いようですが、建物を縦に割る方法もあります。改造は大規模なものになるので、ついでに外壁や屋根を新しくすると、リフォームでありながらまったく新しい外観にすることもできます。2階部分をそっくり切断して強固な骨組みを造り、新たに2階を乗せる工法をとれば、構造的にも安心できます。
完全分離型の長所は、部分分離型よりさらにプライバシーが守れることです。老夫婦がまだ現役で仕事をしているとか親が子供の子育てなどに口を出さない方針である場合、老夫婦の看病をする可能性が当分ない場合などはこの型にするとよいでしょう。後々のことが心配なら、内部にドアや吹き抜けを造れば、自由に出入りもできますし気配を感じとることもできます。

 

 部分分離型
部分分離型は、同じ屋根の下に住みながら、ある程度のプライバシーを守りつつ、しかもつかず離れずの関係でいられるのが長所です。また、土地に余裕がないけれども二世帯住宅を造りたいという場合にも適しています。
分ける生活スペースは、土地の余裕によって決めるとよいでしょう。キッチン、ダイニング、トイレまでが分離できれば、とりあえずプライバシーが守れます。できれば浴室やりビングも分離しましょう。こうした二世帯住宅は、普通の一軒家でも、2階に新しく若夫婦の台所やトイレといった水回りの施設を取り付けるだけで造ることができます。また、一部共有であれば、みんなで食事をしたり、子育てや介護などにおいても自然に助け合いながら暮らすことができます。

 

 完全同居型
家庭内のコミュニケーションが非常にうまくいっている場合や、高齢の親と住む場合には、玄関やキッチンを別々に

する必要はありません。リフォームも老夫婦の部屋を充分に広くとって新しくする、あるいは部屋の増築、トイレの

増築程度ですみます。ただしその際、老夫婦の部屋は必ず1階にして、トイレは部屋の近くに配置するようにしましょう。

逆にリビングや子供部屋は遠ざけます。真上に配置する部屋にも気を配りましょう。
完全同居型の長所はなんといっても、3世代がいっしょに住んでいるということです。おじいちゃん、おばあちゃんは親には教えられないことを孫に教えてくれます。お年寄りへの配慮が自然にできる子供にもなるでしょう。共同で住むからには、それがお互いにプラスアルファとなるように、要所要所でプライバシーが確保されているのが大きな前提です。